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皆様はgimというブランドをご存知でしょうか? アイビーを志したある程度の年代の方にはおなじみのニットの老舗。1965年、まだ現在のような“裏原宿文化”が形成されるずっと前から、gimは原宿の地でニットと向き合い続けてきました。伊勢丹、BEAMS、コム・デ・ギャルソンといった錚々たるブランドの製品を担い続けるというのは、口で言うほど簡単なことではありません。どんなに難しい仕様でも、素材でも、必ず“着られる形”にしてくれる。その確かな手腕に、バイヤーやデザイナーたちは絶大な信頼を寄せてきました。
ここで強調しておきたいのは、gimは自社工場を持つメーカーではないということです。むしろ、協力工場の強みを見極め、最適な工程を組み合わせる。その調整力こそがgimの真の強みなのです。クライアントの要望に応える柔軟さは、長年にわたり“日本のニットの土台”を静かに支えてきました。
そんな製造者としてのgimに今、改革が起きています。それは元伊勢丹のアシスタントバイヤーとして経験を積んだ八木原雄介さんが加入し、新しいgimとして“自ら表現するブランド”として新たなステージに立っていること。老舗としての「作る」という信頼感に「買う人・売る人」の視点が加わり、提案力を強化した共創型のOEM提案が可能となりました。原宿の出荷場跡地に作られた直営店「I CAN’T GIVE YOU ANYTHING BUT KNIT by gim」はその象徴であり、gimは今や「売る」ことの難しさも理解した“両利き”のメーカーとして進化しています。
八木原さんへのインタビューに入る前に、まずはそのgimが取り組んできたものづくりについて、詳しくご紹介したいと思います。

gimのカシミヤニットは、なんと23色展開。
一見すると「色数が多いな」という印象を受けますが、実はこの事実の裏には、他ではなかなか真似できないgimの凄さが隠れています。それは、23色ものカラー展開ができるだけのカシミヤ原料を、安定して確保できていること。しかもその原料は、外モンゴル地区の遊牧民が育てる上質なモンゴルカシミヤです。さらに、gimは希少なシーアイランドコットンを用いた製品づくりにも取り組んでおり、これらの素材を扱うには、現地との深く強固なネットワークがなければ実現できません。
同じ素材を使った製品がイタリアでつくられた場合、その価格は2倍、3倍になることも珍しくありません。
それでもgimは、本物の品質を保ちながらも、手の届く価格帯で提供し続けているのです。

どれだけ良いアイデアがあっても、それを形にできる“実現力”がなければ、製品は生まれません。
gimの協力工場には、日本にわずか数台しかない30ゲージの緻密な編み機をはじめ、
細い糸を使用しながらも強度を出す編み設計のノウハウ、10ゲージや7ゲージなどゲージ差を活かした表情の出し分け、そして、ハイゲージでも網目を揃えて美しく接合する職人技術が受け継がれています。
さらに、編み立て後の仕上がりを決定づけるのが、縮絨(しゅくじゅう)加工。職人が丁寧に時間をかけながら洗い、風合いを出すこの工程にも、長年の経験に基づく高度な技術が詰まっています。60年間のありとあらゆるクライアントの無理難題のオーダーが、gimの技術力、表現力のベースを作ってきました。


ニットは、糸と機械、そして人の感覚が重なり合ってこそ、服としての“佇まい”が生まれます。
gimには、いまや国内でもごく限られた場所にしか存在しない特殊な編機と、その特性を熟知した職人たちがいます。この両者の絶妙な連携によって、目には見えない“違い”が確かに編み込まれているのです。
落ち感、厚み、肌触り、そして機能性。そのすべてにおいて、「なんだか、これは違う」と思わせるgimの製品は、まさに知識と経験の結晶といえるでしょう。流行のスピードに乗るのではなく、
“深み”を編み出すことに真っ直ぐ向き合ってきた—— ここにしかない、ニットづくりがあります。
素材力と技術力を武器に、“縁の下の力持ち”的な存在として信頼を築いてきたgim。 その本流であるベーシックライン「GIM」ももちろん素晴らしいのですが、近年、gimはさらに新たな展開に踏み出しました。それが、コンセプチュアルな表現に挑む「gim context」と、女性らしさと職人技が交差する「A PRACTICED HAND」という2つの新ラインです。


GIM(ジム)
gimの原点にして、創業当初から続くベーシックライン。
1965年の創業以来、GIMは百貨店やセレクトショップ向けのOEMを通じて、「確かな品質」と「飽きのこない美しさ」を追求してきました。このラインでは、シーアイランドコットンや希少なカシミヤなどの上質な素材を贅沢に使用し、肌に触れる“着心地”から、編みの“ゲージ”に至るまで徹底してこだわり抜いています。イタリア製の同クラスと比べても価格は半額以下ながら、品質はそれに引けを取りません。
まさに、知る人ぞ知る本物の“オーセンティックニット”を体現するラインです。

gim context(ジム・コンテクスト)
ニットの概念を再編集する、実験的かつ思想的なライン。
2022年秋冬より本格的に始動。 gimが長年のOEM事業で蓄積してきた素材知識と生産技術をベースに、セントマーチン出身のデザイナーと協業して立ち上げました。コンセプトは、「積み重ねられた歴史や文化への文脈をほどき、新しい時代へ編み直す」というもの。服を“着る”という行為の背後にある社会的・文化的な文脈(コンテクスト)に光を当て、それをgim独自の“編む”という手法で立体的に表現します。コレクションには、1950年代のLeeのカバーオールやMA-1といった、従来ニットでは考えられなかったアイテムも取り入れられており、まさにニットの可能性を問い直す挑戦的なラインとなっています。

A PRACTICED HAND(ア・プラクティスト・ハンド)
2023年秋冬シーズンに始動。ブランドコンセプトは「アーティークラフティーニット」手仕事によるクラフトマンシップとアートを融合させ遊び心のあるニットウェア。
繊細な糸使いや縮絨(しゅくじゅう)など、高度な加工技術を駆使しながら、 動きと質感にこだわった「語るニット」を展開。女性らしさを内包しながらも、甘さにとどまらない、芯のある美しさを表現しています。

他にはない存在感を放つレディースニット。緻密に作り込まれたディテールや構造的なフォルムには、長年にわたって培われてきたニット技術が息づいており、gimはそこに“新しい女性らしさ”を繊細に映し出しています。
2023年秋、gimはその出荷場跡をリノベーションし、直営ショールームをオープンしました。店舗名にも込められたとおり、「ニットしか提供できない」という潔さと誇りをそのまま空間に託した、ニットのためのギャラリーです。gimの世界観と3ブランドすべての魅力を、実際に「見て・触れて・感じられる」唯一の場所。ここでは、日常に寄り添うGIMのベーシックラインから、文化を編み直すgim context、職人技が息づくA PRACTICED HANDまで、すべてのラインが実際に手に取れるだけでなく、ニットの可能性を「感じる・考える・共有する」体験が用意されています。
商品展示にとどまらず、アーカイブ資料の公開やデザイナーとのコラボ展示、ポップアップなども随時開催予定。“つくる場所”だった空間が、“伝える場所”へと生まれ変わったこのショールームは、gimが掲げる「ニットの再定義」を体感できる、まさに現場そのものです。

百貨店からメーカーへ──。
そしてベーシックとクリエイティブの狭間で、ニットの新たな可能性を探り続けるgim。
時代が移り変わる中でも、確かな技術と実験精神を両立させる八木原雄介氏のものづくりは、今のニット業界の“進化の象徴”でもある。
「売る」と「つくる」の両方を経験したからこそ見えてきた、ニットの本質とこれからの展望を伺いました。
もともとファッションが好きで、大学卒業後に伊勢丹へ入社しました。最初は「バイヤーになりたい」というシンプルな動機でした。けれど現場で働くうちに、百貨店のあり方が大きく変わっていくのを肌で感じました。かつては百貨店自身で在庫を持ち、売場を編集する“自主編集売場”がありましたが、次第にブランドへスペースを貸す「場所貸し型」へと移行していきました。百貨店が自らリスクを取り、色を出していく時代から、フロア全体を“エディットしていくマネジメント”のほうが主流になっていく──そんな転換期を、まさに現場で見ていました。
そうした流れの中で、百貨店という仕組みそのものが変わっていくことを強く感じました。
「バイヤー」という職種がこの先どうなっていくのか。商品の買付だけでなく、空間を構成したり、フロア全体を編集する役割に変わっていくのではないかという直感がありました。同時に、在庫を持って挑戦する場が減り、感性や判断で売場をつくる余地がどんどんなくなっていく。その変化を日々の仕事の中で体感しながら、「このままでは、自分の立っている場所そのものが変わっていくかもしれない」という感覚を覚えました。
そんな時、コロナ禍による店舗休業があり、立ち止まって考える時間が生まれました。将来の方向性を明確に描いていたわけではありませんが、“今いる場所の構造が変わっていく”という実感があったからこそ、「もう少し違う立ち位置から服づくりに関わってみたい」という思いが自然に生まれました。
ちょうどその頃、会長(祖父)から「一緒にやってみないか」と声をかけてもらい、結果的にそれがgimに入社する大きなきっかけになりました。どちらかといえば強い決意というより、時代の流れと自分の直感がちょうど重なった“必然のタイミング”だったと思います。
百貨店で働いていたときは、接客もしていました。お客様と直接向き合っていたので、リアルなニーズや反応を身近に感じることができたんです。そういう経験があったことで、いまメーカーに入ってから思うのは、やはり「売る側」と「つくる側」のあいだで、情報の行き来が少ないということです。現場で得られる感覚が、なかなか企画や生産まで届かない。
逆に、工場側の技術や背景が、お客様に伝わりづらい。そのギャップが大きいなと感じています。
gimに入ってみて、自分の中ではそこをつなぐ“橋渡し”的な立場でいたいと思うようになりました。百貨店の現場で得た感覚と、ものづくりの現場で培う視点。その両方を行き来できるのは自分の強みかもしれないと。
あと感じたのは、「良いものをつくる」ことを大切にしながら、「ブランドを育てていく」というベクトルを持ち続けることも重要。入社したばかりの頃は、そのノウハウをどう調整していくか、かなり悩みました。いいものをつくることと、それをきちんと“伝えていく”ことは別の力が必要で、今後はブランディングができないと難しくなるなというのは、実感としてあります。
百貨店で接客をしていた経験から言えば、一番大きかったのは、消費者目線の意識が自分の中に根付いたことです。実際にお客様がどういう場面で服を選び、どう感じているのかを見てきたことが、今のものづくりにもすごく生きていると思います。
gimは長く、ベーシックで上質なニットを作る会社として支持されてきました。その誇りは大切にしつつも、同時に「このままでは面白くない」と感じていました。メーカーがただ既存の延長線上で製品を作っても、新しい時代には届かないと思ったんです。
最初に立ち上げたのが gim context というブランドです。ロンドン・セントマーチンズ出身のデザイナーと組んで始めたのですが、最初の数シーズンは本当に大変でした。それまでGIMで使ってきた工場では対応できない仕様も多く、自分で外部の営業や工場を開拓して、協力してもらえる体制をつくりました。デザイナーからの要望も非常に高く、複雑な素材の組み合わせや特殊な編み構造など、これまでにない挑戦ばかりでした。セントマーチンズ出身のデザイナーと過ごした数シーズンは、自分にとって非常に勉強になった時間でした。
ものづくりだけでなく、ブランドの考え方や見せ方、ブランディングの基礎まで、一つひとつ実践の中で学んでいった感覚です。この経験が今のディレクションのベースになっています。
現在は gim context のデザインも自分で手がけています。企画やディレクションを自分の手で進めながら、一緒に動いてくれている社内のデザイナーや外部スタッフとともに、少し実験的な提案ができるようにしています。ブランド立ち上げ期に得た経験が、いまのものづくりの判断軸になっています。
その後、コロナ禍の補助金をきっかけに、レディースラインを立ち上げました。このブランドが A PRACTICED HAND です。立ち上げ当初は、ラフ・シモンズのニットデザインチームにいたデザイナーとのご縁から始まりました。
このブランドでは、僕自身がデザインをするというよりも、そうしたデザイナーたちに任せて、gimの素材や背景をどう活かしてもらえるかを考える立ち位置です。それぞれのデザイナーの感覚を尊重しながら、ニットでどんな表現ができるかを一緒に探っていく──そうしたやり方が、今のgimの新しい方向性をつくっていると感じています。

直営店をやってみて、お客様がどういう人で、どういうふうに見ているのかがリアルに分かるようになりました。ECだけだと分からなかった感覚や反応を、直接感じ取れるのは大きいですね。BtoBが中心だったときにはなかった視点で、ものづくりを考えるきっかけになりました。
百貨店にいた頃は、お客様と毎日接していたので、自然とその人たちの好みや雰囲気を感じながら商品を見ていました。直営店を始めたことで、そのときの“お客様と関わる感覚”を、もう一度自分たちの中に取り戻せたように思います。いまは、直営店やECに関わっているメンバー同士で「どういうお客様が来ているか」「どんなアイテムが動いているか」を話す機会も多くて、そうした情報をもとに、BtoCというか、お客様視点のものづくりを考えるようになりました。
店舗では gim context のような実験的なラインと、ベーシックなGIMの両方を展開していますが、まだ自分の中では見せ方の部分で完全に納得できていません。もう少し整理して、両方のバランスをよくしていきたいと思っています。たとえばベーシックなラインも、どういう人がどういうシーンで着るのかという“スタイリングの中での見え方”をもっと意識しないといけない。
昔はハイゲージの薄手のセーターの下にシャツを着るのが普通でしたが、今は一枚で着たり、ジャケットの中に合わせたりすることが多い。そうなると、前下がりを上げて天幅を狭くするなど、細かいパターンを変えないと全体の印象が崩れてしまいます。襟のラインや幅だけでも見え方が全然違ってくる。だから“良いものを作る”というよりも、スタイリングの中でどう見えるかという視点で服を考えないといけないと思っています。
最近は、次の時代の「イケオジ」像みたいなものもよく考えています。パンツの太さが変わるだけで着丈や肩幅のバランスも変わるし、ファッション全体のシルエットが少しずつ変化している中で、どんな世代の男性がどういう“かっこよさ”を求めるのかを見極めたい。男らしいスタイルもありますし、少し中性的な雰囲気の人たちが、これから40〜50代になっていく。そうなったときに、着こなしやスタイリングはまた変わっていくはずで、
その時代に合ったベーシックをどう提案していくかは、これからの大きなテーマだと思っています。
国内の市場だけを見て、何か“薄味”なものを中途半端にやるよりも、しっかり突き抜けてグローバルに展開していくほうがいいと思っています。むしろ海外で認められたものを、日本に逆輸入していくくらいの方が、ブランドとしての価値が上がる気がします。
特に中価格帯以上のブランドづくりでは、国内完結ではなく、外に出て評価されることがブランディングの一部になる。そういう方向での挑戦が、これからのgimにとっては大事になると感じています。
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