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今泉 賢治インタビュー写真

ナイガイが トップブランドに“足元”を任されるということ。

株式会社ナイガイ 今泉賢治 インタビュー

100年超の信頼を築いた、日本発・靴下の名手に迫る

NAIGAI STYLE より

ラルフローレン、カルバン・クライン、ランバン、トミーヒルフィガー。
 世界を代表する一流ブランドの“足元”を、支え続けてきた日本の企業があるのをご存知でしょうか?
 その名は、株式会社ナイガイ。創業100年以上、ニット製品の中でも特に過酷な“靴下”という領域に特化し、世界に名を馳せています。
伸び縮みを繰り返し、汗を吸収し、型崩れを許さない。ファッション性と耐久性を同時に求められる、まさに「ニットの戦場」。
 ナイガイは、そんな足元の世界で“指名され続ける存在”であり続けています。
一体なぜ、名だたるブランドたちはナイガイを選ぶのか?

今回は、技術・哲学・素材へのこだわり、そして未来へのビジョンを探るべく、株式会社ナイガイ代表取締役・今泉賢治社長にお話を伺いました。

その前に少しお話を、
ナイガイが指名される理由について少しご紹介します。

靴下は“ニットの最前線” 技術の核にある「NDX」という名のゴム糸

NAIGAI Rondex(Thailand) Co.,Ltd (NDX製造工場)
NAIGAI / RONDEX FACTORY (NDX製造工場)

靴下は、セーターやカーディガンなどと同じ“ニット製品”のひとつ。けれど、その設計にはまったく異なる緊張感が求められます。
 伸び縮みの回数、汗や摩擦への耐性、締めつけすぎずズレ落ちない保持力――。
毎日着用され、歩かれ、洗濯される中で、「見えない機能性」が試される領域。それが靴下なのです。
「編む」だけでは足りない。“動きに耐え、形を保つ”技術がいる。
 ナイガイは100年以上にわたり、そんな足元の過酷な条件に向き合い続けてきました。

その秘密のひとつが、ナイガイが1977年に独自開発した高機能ゴム糸「NDX」。
 ゴムというと、どこも同じと思われがちですが、靴下にとっては要とも言える素材。履き口のフィット感や耐久性を左右します。ナイガイは、天然ゴムと合成ゴムのそれぞれの特性を理解し、紫外線や洗濯による劣化に強く、なおかつ締めつけすぎない快適な伸縮性を両立させました。
 その成果が、このNDX。上のグラフを見ていただくと特に着用期間に対する弾性の保持率が高いのがわかります。実際、NDXを使った靴下は、何十回洗ってもゴムがへたりにくく、外干しでも劣化しにくいという声が多く聞かれます。こうした“見えない部分”へのこだわりが、ブランドの信頼を集めているのです。

オリジナルブランドでスポーツ用途からファッション用途まですべて展開。靴下を“試す場”を自ら持つ強さ

ナイガイが他と違うのは、技術があるだけではなく、それを実地で検証できる環境を自ら持っていること。自社ブランドとしても、以下のように幅広いシリーズを展開しています。

  • NAIGAI COMFORT:究極な履き心地を追求し、十人十色の足のお悩みに応えます

  • NAIGAI PERFORMANCE:ランニングなどのスポーツをよりたのしむために足の動きをサポートします

  • NAIGAI STYLE:デザインやトレンドを意識した足元に華やかさを添えてくれるデザインシリーズ

  • NAIGAI TRADITIONAL:10年以上ロングセラーの殿堂入りアイテム

靴下の向こう側を考える企画力 "はかないくつした"

最近では、ミュールやパンプス、ローファー、サンダルなどに直接装着でき、靴下と同じように洗濯可能で、インソールにはない高い吸水力を備えた、まったく新しい商品「はかないくつした」を開発しました。素足で靴を履きたいというニーズに応えるこの商品は、テレビ番組で紹介されたことをきっかけに大きな反響を呼び、放送直後にはECサイトのアクセスが急増。一時は売り切れが続出するほどの人気となりました。

ファッションと機能、その交差点に立つナイガイ

見せるための靴下、スポーツなどの機能のための靴下、今までに考えもつかなかった靴下など、単なる消耗品ではありません。コーディネートの一部でありながら、1日を快適に過ごすためのものでもある。ファッション性と機能性が、最も近い距離で共存するアイテムです。
そんな複雑な領域を、百貨店、量販店、ブランドOEM、自社製品と、あらゆるニーズに対応してきたナイガイ。 編集部としては是非未来のお話を聞いてみたいと思います。

さて、そんなナイガイの社長今泉さんに
いろいろお話しお伺いいたしました。

株式会社ナイガイ	代表取締役社長  今泉 賢治 さん

本日は貴重なお時間頂きありがとうございます。
編集部の方でいろいろ聞きたいことをまとめてみましたのでざっくばらんにお答えください。

Q  ナイガイさんは、そもそもなぜ靴下を製造されたのでしょうか?

今泉さん
今泉さん

森村組と同じ源流から生まれた靴下メーカー

私たちナイガイの原点は、大正9年、1920年の創業に遡ります。当時の日本にはまだ「靴下産業」と呼べるものはほとんどなく、靴下といえば欧米からの輸入品。しかも質が良くないものが多くて、日本人の足には合わない。そうした現状を見た創業者の依田光一と小林雅一は、「日本人に合った、日本人のための靴下を、自分たちの手でつくろう」と決意したんです。

この二人はもともと、森村組のニューヨーク支店(モリムラブラザース)で働いていた人物です。森村組というのは、モノづくり企業の源流となった組織で、いわば日本の近代産業を支えたグループでした。その中でビジネスを学んだ彼らは、単にモノを売るのではなく、「暮らしを豊かにするモノを、自分たちでつくる」ことの価値を身をもって理解していたんです。

当時の日本には、靴下を編む機械が少なく、海外から機械を調達し、ゼロから国産靴下の道を切り拓いていきました。しかも、ただの輸入代替ではなく、「強くて履き心地が良く、しかも価格が合理的な商品を提供して、世界中の人々にサービスを提供する」ことを目指したのです。

ですから、なぜ靴下を作り続けたのか?と問われたら、それは単に“市場があったから”ではなく、「日本人の暮らしに本当に必要なものを、自分たちの手でつくり出したい」という、創業者たちの志と時代背景が結びついた結果なのだと、私は思っています。

靴下は決して主役ではありません。でも毎日履くものですし、履き心地ひとつで人の一日を左右します。だからこそ、ナイガイは100年以上もの間、靴下というものに真摯に向き合い、続けてきたのだと思いますし、これからもその姿勢は変わらず守っていきたいと考えています。

Q  NDXという独自開発の素材に大変興味があるのですが、どのような技術で、またどのような広がりを見せているのでしょうか?

今泉さん
今泉さん

スパンデックスでは叶わなかった、履き心地

靴下における“快適さ”は、見た目以上にこのゴム糸で決まります。実は昔の靴下には、そもそもゴム糸が使われていなかったんですよ。履いているうちにズレたり、よれたりしてしまうのが当たり前の時代。そんな中で、ナイガイは「靴下にゴムを挿入し、同時に編み込む」という革新的な技術をいち早く開発しました。これは当時、まったく新しい発想で、本来なら特許を取って独占しても良い技術だったかもしれません。

そうした中で、私たちナイガイは靴下の口ゴムに最適なNDXというゴム糸素材を独自に開発しました。他社では真似のできない液状の天然ゴムと合成ゴムを混合する技術を開発し、当社のグループ会社であるロンデックスタイランドが製造をしています。

NDXの最大の特長は、従来のスパンデックスよりも圧倒的に柔らかく、しなやかであること。しかもその柔らかさを維持しながら、繰り返しの洗濯にも耐えうる耐久性を備えていることです。

そしてこのNDXは、肌着やパジャマ、その他のアウターなどのウエストゴムはもちろん、医療・介護分野では、皮膚にやさしいサポーターや、医療用弾性ストッキングなどへの応用が始まっており、単なる靴下用の素材ではなく、“人の暮らしのさまざまな場面に応えるプラットフォーム”になりつつあります。

靴下メーカーである私たちが素材を通して社会の課題解決に貢献できる。そんな新しいステージに、いま差しかかっていると感じています。

NAIGAI STYLE より

Q  たくさんのトップブランドから信頼される背景や、自社ブランドを保つ意味など教えていただきたいです。

今泉さん
今泉さん

ナイガイ基準NIS

私たちは長年にわたり、国内外のさまざまなブランドと信頼関係を築きながら仕事をしてきました。中でも、ラルフローレンブランドとは40年ほどのお付き合いが続いています。

あるとき、ラルフローレンブランドの企画で「こういう靴下をつくってみたい」という構想がありました。ただ、その仕様に対応できる編み機が当時はなかったんですね。そこで私たちは、機械メーカーさんに相談して、そうした靴下を編める機械を新たに開発していただいたという経緯があります。
その結果、特殊な仕様に対応した機械が完成し、私たちの工場でも導入して本格的な生産に取り組むことができました。こういった姿勢も含め、技術や品質面で信頼をいただけているのかなと思います。

東京都江東区森下に技術開発拠点があり、品質管理については、公的な試験機関として、JNLA(独立行政法人製品評価技術基盤機構)の登録を受けています。

NIS(NAIGAI INDUSTRIAL STANDARD)という独自の品質基準を設けていて、社内だけでなく協力工場にも同じ基準を徹底しています。洗濯後の外観変化、フィット感など、より実使用に近い視点で細かくチェックする内容になっていて、実際に何十回もの洗濯テストを行う場合もあります。色落ちや強度、安全性の試験を行っています。このような基準を通じて、「どこでつくってもナイガイクオリティ」が出せる体制を整えています。

また、OEMやライセンスに加えて、自社ブランドを続けていることも大きな意味があると感じています。
店頭での反応やお客様の声を直接感じることで、私たち自身の感覚が磨かれますし、それがOEM製品にも活かされていく。そうした循環が、ものづくり全体の質を支えていると思っています。

靴下は小さな商品かもしれませんが、ブランドの価値観や世界観が表れやすいアイテムでもあります。
その世界観を損なわず、引き立てる存在であるために、これからも丁寧に誠実なものづくりを続けていきたいと思っています。

Q  以前は自社で工場を持たれていたナイガイさんが、工場を外部に委託し、商品の開発と、原材料の開発に取り組まれているのはとても興味深いのですが、そういった体制に変わった経緯をお聞かせいただけますか?

今泉さん
今泉さん

量産の時代を越えて。ナイガイが見つめ直した役割

もともと私たちも工場を持っていて、靴下の生産をすべて自社でまかなっていた時期もありました。もちろん、それが全部うまく回れば一番儲かるのかもしれません。

お客様のニーズも以前のような大量消費型ではなくなっていますし、流通の形もどんどん細分化されてきています。そうなると、「全部自社で一気通貫にやる」ようなビジネスモデル自体が、弊社には合わなくなってきたんですね。

そこで私たちは、自社でつくることにこだわるのではなく、協力工場さんとうまく連携しながら、私たちは企画や設計、原材料開発などに集中する体制に切り替えてきました。たとえばNDXのような独自素材の開発にも取り組めていますし、NISという独自の品質基準をもとに、国内外の工場とも品質レベルを揃える取り組みもしています。

生産を外部に委ねるというと、「自分たちでやらなくなった」と思われることもありますが、むしろ私たちはものづくりの“本質的な部分”――なぜこの製品をつくるのか、どんな価値を込めるのか――そういった部分に、より強く責任を持つようになったと思っています。

今は、時代の変化に合わせて自分たちの役割をきちんと見直し、その中で価値をどう発揮できるかを考えることが大切だと感じています。

Q メーカー、小売などパートナーとどのように価値を共有されているのか?川上、川中、川下とありますが、ナイガイにとっての川中、卸の役割、意味など教えて下さい。

今泉さん
今泉さん

企画から開発まで踏み込む、“考える卸”のかたち

私たちは長年、いわゆる「川中」としての立場で、卸という機能を果たしてきました。
若い頃、上司に「卸というのは、ただモノを運ぶだけじゃなくて、その背景にある考え方や価値を理解して、それを相手にきちんと伝える役目があるんだ」と言われたことが、今でも心に残っています。

上流であるメーカーや工場がどういう思いで商品をつくっているのか。
下流である小売やお客様が何を求めているのか。その両方の立場を理解しながら、間に立って調整したり提案したりするのが私たちの仕事だと思っています。

協力工場さんに対して「こういう商品を一緒につくっていきたい」と提案する中で、場合によっては機械を私たちが購入し、それを貸与するようなこともあります。
いわば、リースに近いような形で協力をしてもらっている部分もあります。やはり、機械への投資には資金面の負担も大きいですから、こちらから環境を整えることで、一緒に価値あるものづくりができる関係を築けたらという思いがあります。

近年はブランドが直接販売を行うケースも増えてきましたが、だからこそ、卸の視点から関係性をつなぎ、全体のバランスをとるような役割は、今でも十分に意味があると感じています。

また、ナイガイでは商品の企画・設計といった川上の部分にも関わるケースが多く、単なる「中継点」ではなく、開発にも一歩踏み込んだ卸としての立ち位置を取っています。

今は、流通や販売の形が多様化し、役割も固定されない時代になっています。
その中で私たちは、自分たちの立場や強みを活かしながら、価値をきちんと伝え、届けていく存在でありたいと考えています。

Q  最後に今後ナイガイが目指す姿、考える靴下の未来をお聞かせください。

今泉さん
今泉さん

靴下を“出世”させたい──日用品から社会を支える存在へ

社内でもよく話しているのですが、私はやっぱり、靴下を“出世”させたいと思っているんです。
靴下って、どうしても日用品とか消耗品として見られることが多いですけど、もっとその価値を上げていきたい。靴下自身の存在価値を、しっかり伝えられるようにしていきたいという気持ちは強く持っています。

これからの靴下業界では、「単なる衣類」ではなく、機能性と感性の両立がより重要になると感じています。
履き心地や快適さはもちろんのこと、健康面への配慮や、日々の生活の中で“気持ちよさ”や“満足感”を得られるかどうか。そういったところに靴下の価値があると思っています。

特に、少子高齢化が進む中で、足元から健康を支えるような靴下の必要性は高まってきています。
靴下が健康を支える存在として、社会の中で少しずつ認識されていく可能性は十分あると感じています。

ファッションとしての靴下も変化しています。
昔は黒や白、紺などが中心でしたが、いまでは年齢や性別に関係なく、靴下を見せる・楽しむという文化が当たり前になってきました
今後は、そうした自己表現の手段としての靴下も、さらに広がっていくのではないかと思います。

私たちナイガイとしては、これからも技術力と企画力の両方を活かしながら、暮らしに役立つ靴下を提案し続けていきたいと思っています。
単なる製品をつくるだけでなく、健康、ファッション、環境、地域との関わりなど、靴下を通して多方面で価値を生み出していけたらと考えています。

そのために、創業時からの「人に奉仕する」という考え方を大切にしながらも、時代に合わせた変化にも柔軟に取り組んでいきたいと思っています。
たとえば、デジタル販売やAIを活用した分析、ESG素材の開発などにもすでに動き出しています。

そしてやっぱり、社員一人ひとりが自分の仕事に誇りを持てる会社でありたいですね。
会社というのは結局“人”ですから、社員が成長し、働きがいを感じられる環境づくりが、結果として社会への貢献にもつながると信じています。

また、若い世代に向けてもお伝えしたいことがあります。
正直なところ、靴下業界って“地味”に見えるかもしれません。
でも私は、実はとても人間味があって、奥深くて面白い仕事だと思っているんです。

靴下って、実は身体に一番近いアイテムの一つです。
履き心地ひとつで、その日の気分が変わることもある。そこに「誰かを想う気持ち」があるんですよね。
たとえば糸の種類、編み方、履き口の締め付け具合など、目に見えない部分で細かな工夫が重ねられている。
そして、それを誰かが実際に履いてくれて、役に立っていると感じたとき、本当にうれしい気持ちになります。

地味に見えるけれど、人の暮らしに深く関わっている素晴らしい仕事だということを、ぜひ若い人たちにも知ってもらいたいです。
そして、これからの業界は、異業種やデジタルとの掛け合わせ次第で、新しい可能性がどんどん広がっていくとも思っています。
そうした挑戦を、私たちはこれからも真剣に応援していきたいです。

今泉社長 長い間こちらの質問にお付き合いいただき有難うございました。

「靴下を出世させたい」という言葉に象徴されるように、
ナイガイさんのものづくりには、生活者へのまなざしと飽くなき挑戦心が感じられました。健康やファッション、環境対応まで、靴下の役割がこんなにも広がっているとは驚きです。川中としての卸の在り方にも、新しい視点を教えていただきました。“足元から暮らしを支える”という言葉の重みを、あらためて実感できる取材となりました。

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