知るほどに面白いニットの世界
KNITTERESTING
Interview :
2025/8/8
私たち編集部は、靴下メーカーとして長い歴史を誇る株式会社ナイガイの研究拠点「ナイガイ品質管理部門」を訪ねました。
そこは、単に靴下を作るだけの場所ではなく、製品一つひとつの「品質」と「快適さ」を科学的に裏付けるための研究・検証の拠点です。 特筆すべきことはこの試験室がナイガイお客様相談センターの隣にあること。 お客様のご意見をすぐ確認することもできます。 さらにJNLA(産業標準化法試験事業者登録制度)の登録を取得し、公的機関としての試験所でもあります。
研究室に足を踏み入れると、汗や洗濯による色移りを確認する試験機、摩耗や破裂に対する強度を数値化する装置、さらには実際の足型を再現して履き心地まで検証するマネキンまで——まるで“靴下の総合病院”とも言える環境が整っていました。
靴下という日常的なアイテムに、ここまで多角的な試験と基準を設けて挑む姿勢には、専門メーカーとしての凄みを感じます。今回は、その研究の現場を実際に見学し、ナイガイがなぜ長年にわたり信頼され続けてきたのか、その秘密を紐解きました。
汗や洗濯で色は落ちないか、生地はどのくらいの力で破れるのか、長く履いても型崩れしないのか――。
一見シンプルに思える靴下ですが、その裏側には想像以上に多くの検証が行われています。
ここからは、ナイガイ研究所で実際に行われている実験の数々をご紹介します。
靴下は汗や雨に濡れることが避けられません。そこで本当に色落ちや色移りが起きないかを、人工的に再現した環境で検証していました。

概要:アルカリ性・酸性、2種類の人工汗液を使って実際の着用時を再現。体温に近い37℃で圧着し、色移りが起きないかを確認。
目的:汗で色落ち・色移りしないかを検証。
方法:人工汗液に30分浸漬 → 37℃で4時間圧着 → 乾燥後に評価。グレースケールで判定。

このような器具のプレートに、製品の切れ端と真っ白な布を重ねます。
人の汗にはアルカリ性と酸性があるため、それぞれの人工汗液を作って試験を行います。
また、白布は綿とナイロンの2種類を用意して検証します。

重りを使用し、布に荷重がかかった状態でサイドを固定します。
(※実演のため本来の枚数より少ない板数で行っています。)

試験片を挟んだ状態で、37℃(±2℃)に保ち、体温下で布が押し付けられている状況を再現します。
そのまま4時間放置して、変化を確認します。製品サンプルと白の布を剥がし、乾燥させます。 これによりどれぐらい白の布に色移りが発生しているのか確認することができます。
日常で繰り返す洗濯こそ、靴下の大敵。実際よりも厳しい条件での洗浄試験です。

概要:洗濯での色落ちを検証。50℃の高温条件で行うため、実際より厳しい環境を再現。
目的:繰り返しの洗濯で品質を維持できるか確認。
方法:試験布を洗剤溶液で30分洗浄 → 退色や色移りをチェック。グレースケールで判定。

このように製品サンプルと綿とナイロンの布を縫い付けたものを、

ステンレス製の専用容器に、50℃に温めた規定濃度の洗剤とともに入れて試験を行います。

しっかりと密閉し、洗濯を再現できる機械へ設置。

この機械に50℃の水を入れ、先ほどのステンレス製の筒をセットして30分間回転させます。
一般的な家庭用洗濯機よりも、はるかに厳しい条件で行う試験です。
試験後は水で洗浄し、干して乾燥させたうえで、布への色移りの有無を確認します
靴下の生地がどれだけの力に耐えられるか。まるで風船のように下から膨らませ、生地が破裂する瞬間を計測する迫力ある試験です。

概要:生地を下から膨らませ、破れるまでの圧力を測定。
目的:生地の耐久性を数値化。
方法:油圧でゴム膜を膨張 → 生地が破れる圧力を測定。

測定したい生地を取り付け、

ゴム膜が下から油圧で膨らみ、生地を押し上げます。

生地が破断しました。 400kPaあれば問題ないとの判断になるそうです。

この生地は660kPaで破断しました。
歩けば必ず起こる“摩擦”。その影響を金属板で何千回も再現し、靴下が擦れに強いかどうかを徹底的に確かめていました。

概要:実際に履いた時の擦れを再現し、摩耗への耐性を調べる。
目的:繰り返しの使用で穴が開かないか検証。
方法:金属板で繰り返し摩擦(500回以上) → 表面変化を確認。

かかと部分をカットした生地をセットし、スチールブレードを擦り合わせながら、上下を同じ方向に回転させます。

2000回こすり、その間に生地が破れるかどうかを確認します。
基準は「500回以上耐えられるかどうか」とされています。

このように、メーターで何回こすったかが分かる仕組みになっています。
乾いた状態や濡れた状態で、他の布に色移りしないかを確認します。
身近な衣類トラブルを防ぐための繊細なテストであり、そのため専用の部屋で実施されます。

概要:乾いた布・濡れた布で摩擦し、色移りを判定。
目的:他の衣類や靴への色移り防止確認。
方法:摩擦後、グレースケールで判定。
恒温恒湿室と呼ばれる、温度と湿度が一定に保たれた部屋の中で行うテストです。
この部屋には先ほどの破裂試験機や摩耗試験機も設置されており、同じ試験を恒温恒湿の環境下で実施できるようになっています。

乾いた白い生地と、湿った白い生地を用意して、それぞれを機器に取り付け、100回こすります。湿摩擦、乾摩擦の状態を再現し、白の布に対してどれくらい色が移るかをチェックします。

ほんのりと色移りが確認できます。
様々な試験によってテスト用の白い布に対しての色移りを、標準光源のもとで確認します。

概要:D65光源下(標準光源)でグレースケールと比較し、色落ちや色移りを正確に評価。
目的:色の変化を正確に評価し、品質基準に照らして合否を判定するため
補足:年に1回外部機関との目合わせも行い独自の判定資格確認を行っている。
様々なテストで色が移った白い試験片は、グレースケールを用いて判定します。
このグレースケールには2種類あり、手前の白っぽいタイプは「どのくらい色が付着したか」を確認するためのもの。
一方、奥の黒っぽいタイプは「どのくらい色が落ちたか」を確認するために使われます。
黄色や赤といった多様な色移りも、すべてこのグレースケールで客観的に評価します。
以前は色ごとにカラーの判定スケールも存在しましたが、最終的に「グレーの濃淡」で判断する方が正確だとされ、現在はグレースケールに統一されています。

よく目にする「1級」などの等級は、グレースケールの裏面に記されています。
判定は半級ごとに区分できる仕様になっており、目視で行われます。
ただし、どうしても個人差が出るため、同じ生地を他社の公的機関にも提出し、判定にブレがないかを確認しているそうです。

このように試験片を目隠しすることで、更に見やすくなるそうです。
社員の足型をもとにしたリアルなマネキンに靴下を履かせ、洗濯後の伸縮やフィット感をチェック。実際の着用に近い検証が行われています。

理由:洗濯後の伸縮やフィット感を確認。
方法:社員の足型から作られたリアルなマネキン足を使用。
概要:実際の履き心地に近い状態で評価。
一般的なマネキンとは異なり、標準体型に近い足型を独自に制作。
そこに実際の靴下を履かせ、洗濯後に再び着用させることで、伸びやフィット感など実際の使用状況を確認します。
生地をマイクロスコープで観察すると、摩耗や断裂の原因まで見えてくる。クレーム対応にも活かされる、探偵のような調査試験です。

概要:糸の切れ方や毛羽立ちを顕微鏡で確認し、不具合の原因を特定。
活用:クレーム対応や不良品調査にも使用。

マイクロスコープで観察することで、実際の穴あきの状態を確認できます。
さらに「引っ掛けによるものか」「ハサミで切れたものか」といった繊維の状況も、拡大によって判別できます。
(写真は100倍で観察した例です)

色がついている生地だと、このような見え方になります。
靴下に使用されるゴム糸(NDXなど)は、周囲に繊維が編み込まれているため、マイクロスコープでは直接観察できません。
そのため、ゴムの伸びなどに関するクレームがあった場合は、ゴム糸を1本ずつ取り出して検査を行うそうです。

靴下メーカーの研究所と聞くと、生地や繊維の強度を試す場所を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、ナイガイラボが本当に向き合っているのは「靴下」そのものではなく、靴下を通して守るべき人の足です。
足の形を3Dで計測したり、歩行時の足裏の圧力を分析したり、さらには高齢者の健康度を測るロコモテストまで。
ナイガイラボは“足の総合研究機関”として、日常の快適さから健康寿命までを見据えた取り組みを行っています。
靴下を研究することは、つまり人の足の未来を研究すること。
ここからは、その現場で実際に行われているユニークな測定と試験をご紹介します。
足の形を正確にデータ化することで、外反母趾や偏平足といった傾向も把握。靴下を超え、“足の研究”へ踏み込んでいました。

概要:3Dスキャナーで足の形を立体的に計測。
目的:足の形や寸法をデータ化し、靴下開発に活用。
補足:外反母趾・偏平足の傾向も数値化。
この機械により立体的に足を3次元でスキャンすることができます。

実際にスキャンされた足です。

足長・足幅・かかと幅など、足のあらゆる寸法をスキャンによってデータ化できます。
その結果、左右の足で大きさに大きな違いがあることが明らかになりました。
歩くときにどこへ重心がかかっているのか。足裏の圧力を色分布で可視化することで、普段は気づかない歩き方の癖が明らかになります。

概要:専用シート上を歩き、歩行中の足裏の荷重分布を可視化。どの部分に力が集中しているかを数値で表示する。
目的:歩き方の癖や重心の偏りを把握し、健康な歩行のためのアドバイスや靴下設計に活かす。
補足:「浮き指」や「片足重心」なども発見でき、巻き爪や関節トラブルの予防にもつながる。

歩行時に、足裏のどの部分に力がかかっているのかを測定できます。

赤く表示されている部分が、特に強い力がかかっている箇所です。
測定の結果、左足は前方に重心があり、右足はかかと重心で歩いていることが分かりました。
また、親指以外の指には圧力がかかっていないため、今後は指全体を使って歩くことを意識すると良いと考えられます。
直立や前傾・後傾で体の揺れを数値化。結果は“バランス年齢”として表示され、体幹の強さや安定性を分かりやすく示してくれます。

概要:直立や前傾・後傾・左右の姿勢で体のブレを測定し、安定性を「バランス年齢」として算出。
目的:体幹の強さやバランス能力を客観的に評価し、転倒予防や運動習慣改善につなげる。
補足:ブレが小さいほど若い数値が出る仕組みで、実年齢との差が健康状態の目安になる。
これは、重心の可動域と安定性を測定する機械で、「バランス年齢」を算出してくれます。
被験者は機器の上に直立し、そのまま体を前傾・後傾・右・左へと傾け、各姿勢を10秒ずつ保持して計測します。

濃いブルーは各姿勢での重心の軌跡を、薄い水色は可動域の広さを示しています。
バランス年齢は、体幹の強さや足首の柔軟性といった要素を総合的に反映し、数値が若く出るほど良好と判断されます。
高齢者が自分の足で歩けるかどうかを確認するテスト。片足での立ち上がりなど、日常動作を基準に健康度を測定する機器もありました。

概要:高齢者の足腰の健康度を測る検査。一定の高さから立ち上がれるかどうかなど、複数の評価指標をもとに判定する。
目的:「自分の足で立つ・歩く力=移動機能」を維持できているかを確認し、介護予防や健康寿命延伸に役立てる。
補足:片足・両足での立ち上がりテストや、大股での歩幅を測定する2ステップテストを行い、基準を下回ると「ロコモ予備軍」として改善が必要とされる。
ナイガイラボさんでは、港区の高齢者施設などに測定機器を持ち込み、足の測定会を実施されています。3D足形測定や、ロコモテスト、体力測定の結果をもとに「足の通信簿」を作成し、高齢の方が足腰の筋力低下によって歩行が困難になっていないかを確認するそうです。
また、子ども向けには靴下の廃材を活用したワークショップを開催するなど、高齢者向けの測定会以外にも、研究活動を地域と結びつける取り組みを積極的に行われています。
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